脊椎・脊髄・神経外科外来
診療科・部門紹介
-いかにやりがいのある、魅力的分野であるかの指導-
はじめに
脊椎脊髄病学会の中で演者(昭和58年卒業)の専門は、顕微鏡下脊椎手術、末梢神経外科、電気生理学検査である。
いわゆるユーターンを機に、平成18年8月から個人的に契約して勤務した現在の病院は、地方都市の郊外の民間病院で当初は一人で「脊椎・脊髄・神経外科(外来)」として、1年半ほどやったが、症例が増えるにつれ、自分なり(個人的な)の若手医師育成への若干の使命感もあり、募集して学閥の全くない若手(卒後5年目)とマンツーマンで1年前から働いている。
若手医師の脊椎外科離れを食い止める方法というテーマであるので、いろいろな面で忙しい大学病院やその関連病院の指導医とは違った観点から、意見を述べたいと思う。
教育1:機能診断と低侵襲手術、技術支援
若手医師の脊椎外科離れの可能性の一番は、合併症(術中・術後)のリスクの大きいSpinal Instrumentation手術の担当医に最初から多くの症例を強制させることではないだろうか?もちろん、脊椎固定術の修練は整形外科や脊椎外科を目指す医師にとっては、必須の項目である。
しかしながら、症例の多い、神経障害を伴う脊椎変性疾患に対する神経症候学、それに対応する画像診断の読み方、そして、理論的根拠に基づく障害高位部位診断と患者に対する治療方針の説明、神経根ブロックや電気生理学的検査の使い分けなど、患者の立場に立った真の臨床的意義を実感できるような教育の仕方が少し、軽視されてはいないだろうか?診断面では、上記のことを最重要とし、指導している。
また、手術においては、たとえば狭窄症なら選択的除圧も考慮し、明るく拡大された顕微鏡下手術の助手で、かれらに感動を与えるような経験をたくさん与えることができる。
かれらは術後管理も楽で、夜中まで病棟にいることはほとんどなく、個人的時間は充分できる分野であると実感させることができる。さらには若手医師が数年後には、自分自身で術者として手術ができるようになりたくなるような教育の仕方がもっとあって良いと思う。
演者の技術支援という面では、手術用顕微鏡手術と脊髄モニタリングである。
脊髄モニタリングの技術は、日常の知覚神経活動電位測定と原理は同じであるが、そのことを理解している脊椎外科指導医はかなり、少ないものと推察する。電気生理担当の医師を特別扱いにすれば、誰も長くこれを継続しなくなるであろう。
かねてから私は日常臨床での筋電図室から脊椎疾患と末梢神経疾患を分け隔てなく、診る医師を目指すような指導することを心がけてきたが、これは若手脊椎外科医育成という面で、大変有意義であった。
そのような面で真に若手医師に診断のレベルアップに電気生理学的検査法の習得は役立つのだと認識されうる。
教育2:末梢神経外科(手の外科・マイクロサージャリー)も同等に興味をもたせる
時々頚椎疾患として治療されてくるこうやく性末梢神経障害を中心にシビレ外来として、脊椎疾患と同等な重きをおいて診療しているし、若手にもそのように教育しているし、院内外へも宣伝している。
末梢神経外科においては、時々腱移行術による運動再建も行い、これも指導している。もちろん、日本手の外科学会へも毎年、参加しているし、若手にも早速、入会させている。
Atraumaticな手技を基本とする手の外科は脊髄・神経根を扱う脊椎外科医にとって、必須と考え、手の外科もできる脊椎外科指導医になることを目標にさせている。もちろん、将来的にSpinal Instrumentation手術も積極的にやりたいならば、支援する。
教育3:積極的な院外研修
民間病院ゆえに病院経営者へ理解させ、1から3カ月単位での手の外科、さらなる低侵襲脊椎外科、一流なペインクリニック、Spinal Instrumentation手術の複数回以上の院外研修ができることを若手募集のひとつの売りにしている。
これは演者自身の経験による考えであるが、実際としてはいかに上司に理解があるかにかかっているからである。
考察
現病院においては、脊椎外科は症例の多い変性疾患と末梢神経外科疾患(場合によっては手の外科、骨折外傷)のみを扱うだけで時間的・マンパワー的に限界である。それであれば、民間病院でも卒後3年以上の若い医師への研修教育としては上記なものがあっても良いのではないかと考え、実践している経験を述べた。
画一的な現在の脊椎外科医育成の教育システムでは、3K的であると感じる若手医師が存在することは否めない。
もう少し、自由度のある研修システムがあって良いものだと考え、今回報告した。
いかに、若手医師に対し、脊椎脊髄外科が魅力的な分野かを、やりがい、症例の多さ、整形外科の中での誇り、診断・治療(手術)のおもしろさ、病院経営上の貢献、社会貢献、など種々の面から戦略を立てるべきであろう。